
信用リスク管理とは?銀行が行う代表的な手法
信用リスク管理の基本は、損失の可能性を把握し、自社が耐えられる範囲へ抑えることです。
バーゼル銀行監督委員会も、個々の融資だけでなくポートフォリオ全体の信用リスクを管理し、許容可能な範囲にエクスポージャーを維持することを重要な目的としています。
1.融資前の信用審査
銀行が企業へ融資する場合、まず返済能力を審査します。
代表的な確認項目は次のとおりです。
- 決算書
- 事業内容
- 利益・キャッシュフロー
- 負債
- 資金使途
- 返済計画
- 担保
- 経営者・経営体制
- 業界環境
審査結果を基に「融資するか」「いくらまで融資するか」「金利を何%にするか」などを決定します。
2.内部格付け
銀行では、自行独自の信用格付制度を設け、融資先を信用力別に分類することがあります。
外部の格付会社による格付けとは別のもので、財務データや返済能力などを基に銀行内部で評価します。
内部格付けは融資限度、金利、モニタリング頻度、信用リスク量の計測などに利用されます。
3.融資先を分散する
特定の1社や1業種へ融資を集中させると、その企業・業界が悪化した際に大きな損失を受ける可能性があります。
そのため、企業、業種、地域、国などを分散することが信用リスク管理の基本です。
4.与信限度額を設定する
信用力や自己資本などに応じて「この会社には最大○億円まで」という限度額を設定する方法です。
特定企業への貸出が過度に膨らむことを防ぎます。
5.担保を設定する
不動産、預金、有価証券などを担保として受け入れる方法があります。
借り手がデフォルトしても担保を処分できれば、損失を軽減できる可能性があります。
ただし、担保の価格自体が下落する場合があるため、「担保がある=損失ゼロ」とは限りません。
6.保証を利用する
第三者の保証があれば、借り手が返済できなくなった場合に保証人等から回収できる可能性があります。
ただし今度は保証人自身の信用リスクも確認する必要があります。
7.契約条件・コベナンツを利用する
企業融資や社債では、財務状態などに一定の条件を設定する「コベナンツ」が利用されることがあります。
早い段階で信用状態の変化を把握したり、追加の対応を取ったりするための仕組みとして利用されます。
8.貸出後のモニタリング
信用審査は融資時だけで終わりではありません。
融資後にも決算内容、返済状況、業界環境、資金繰りなどを確認し、信用状態の変化を追います。
信用力が悪化すれば内部格付けを引き下げたり、貸倒引当金を見直したり、融資条件を検討したりする場合があります。
9.ストレステスト
通常の景気予測だけでなく、「景気が大幅に悪化したら」「金利が急上昇したら」「不動産価格が急落したら」など厳しい状況を仮定して損失を試算します。
日本銀行も金融システムの分析でマクロ・ストレステストを利用し、金融機関の自己資本が大きな経済・金融ショックに耐えられるかを検証しています。
10.信用リスクに応じた金利設定
信用リスクの高い貸出では、銀行がより高い金利や手数料を設定する場合があります。
ただし、金利を高くしすぎれば借り手の返済負担が増えるため、信用リスク管理では単に「リスクが高いから金利を上げればよい」というものではありません。
カウンターパーティーリスクの管理方法
デリバティブや証券金融取引では、通常の融資とは異なる管理方法も利用されます。
- 取引相手ごとの限度額設定
- 担保・証拠金の受け入れ
- 取引を相殺するネッティング
- エクスポージャーの継続的な時価評価
- 中央清算機関(CCP)の利用
- ストレステスト
バーゼル銀行監督委員会は、カウンターパーティーリスクについて、相手の信用力だけでなく市場価格によってエクスポージャー自体も急速に変化する多面的なリスクと説明しています。
そのため、信用リスク、マーケットリスク、流動性リスクなどを横断した管理が必要になります。
個人投資家は信用リスクをどう確認すればいい?
個人が社債や債券型投資信託などへ投資するときも、信用リスクを確認できます。
社債ならまず目論見書・決算・格付けを見る
日本証券業協会は、社債発行企業の信用リスクを確認する情報として、目論見書、有価証券報告書、適時開示情報、格付けなどを挙げています。
具体的には次のような順番で見ると整理しやすくなります。
- 誰が発行している社債か確認する
- 元本償還日と利払い条件を見る
- 信用格付けを確認する
- 発行会社の利益・キャッシュフローを見る
- 負債と現金の状況を見る
- 担保・保証・劣後性の有無を見る
- 同程度の期間の国債等との利回り差を見る
同じ会社の債券でも信用リスクが同じとは限らない
同じ会社が発行する債券であっても、担保の有無や債務の優先順位などによって回収可能性が異なる場合があります。
特に劣後債などは、一般の優先債務より返済順位が後になるため、同じ発行会社でも商品ごとの条件を確認する必要があります。
信用リスクが低い金融商品なら安全?
信用リスクが相対的に低くても、投資商品のリスク全体が低いとは限りません。
債券には信用リスク以外にも次のようなリスクがあります。
- 金利変動リスク:市場金利上昇で債券価格が下落する可能性
- 流動性リスク:売りたい価格で売却できない可能性
- 為替リスク:外国債券を円換算した価値が変動する可能性
- カントリーリスク:投資先国の政治・経済状況に伴うリスク
たとえば信用格付けが非常に高い長期債でも、市場金利が急上昇すれば市場価格が大きく下落する場合があります。
「信用リスクが低い」と「価格が下がらない」は別の話と覚えておきましょう。
信用リスクが高い債券は買ってはいけない?
信用リスクが高いから直ちに投資対象として不適切という意味でもありません。
市場では、信用リスクが高い発行体ほど一般に高い利回りが要求されるため、投資家は追加的なリターンと損失の可能性を比較します。
重要なのは、単に「利回り8%だから魅力的」と考えず、なぜ8%もの利回りが必要なのかを確認することです。
信用不安によって債券価格が大幅に下落している結果、高い利回りになっている可能性もあります。
信用格付けだけで投資判断してはいけない理由
信用格付けは有力な参考材料ですが、万能ではありません。
- 格付けは将来の支払いを保証しない
- 企業の状況が変われば格下げされる場合がある
- 市場価格は格付け変更より先に動く場合がある
- 同じ格付けでも業種・財務構造が異なる
- 格付会社によって評価が異なる場合がある
日本証券業協会でも2026年、国内社債市場について「信用格付のみに依拠した投資判断」の見直しに向けた議論が行われており、デフォルトリスクやスプレッド水準などを総合的に考慮することの重要性が示されています。
信用リスクを確認するチェックリスト
- □ 発行者・借り手は誰か確認した
- □ 信用格付けを確認した
- □ 格付けの付与日・最新性を確認した
- □ 売上・利益・キャッシュフローを確認した
- □ 有利子負債を確認した
- □ 現預金など手元資金を確認した
- □ 元本の返済期限を確認した
- □ 担保・保証の有無を確認した
- □ 劣後条件の有無を確認した
- □ 利回りが高い理由を考えた
- □ 信用スプレッドの変化を確認した
- □ 1社や1業種に集中していないか確認した
- □ 信用リスク以外の金利・為替・流動性リスクも確認した
信用リスクについてよくある疑問
Q.信用リスクとは一言でいうと何ですか?
借り手や債券発行会社などが約束どおり元本・利息等を支払えず、貸し手や投資家に損失が生じる可能性です。
Q.信用リスクとデフォルトリスクは同じですか?
密接に関係しますが、信用リスクの方が広い概念として使われることがあります。デフォルトリスクは実際に債務不履行となるリスクで、信用リスクにはデフォルト前の信用力悪化に伴う価値下落なども含めて考える場合があります。
Q.信用リスクが低いとはどういう意味?
元本や利息などを契約どおり履行できる確実性が相対的に高いと評価されている状態です。ただし、信用リスクが完全にゼロという意味ではありません。
Q.信用リスクが高いと利回りは高くなりますか?
一般には、信用リスクが高いと評価される債券ほど投資家が追加的な利回りを要求するため、高い利回りになる傾向があります。ただし、利回りや信用スプレッドには流動性、市場環境など信用リスク以外の要因も影響します。
Q.格付けがAAAなら絶対安全ですか?
いいえ。AAAは非常に高い信用力を示す格付けですが、元本を保証するものではありません。格付け自体が将来変更される可能性もあります。
Q.信用リスク量とは何ですか?
信用リスクによって将来発生する可能性がある損失を数値化したものです。期待損失、非期待損失、信用リスク・アセットなど、目的によってさまざまな指標があります。
Q.PDとは何ですか?
Probability of Defaultの略で、一定期間内に借り手がデフォルトする確率を表します。
Q.LGDとは何ですか?
Loss Given Defaultの略で、デフォルトが発生した場合にエクスポージャーの何%を損失するかを示す考え方です。
Q.EADとは何ですか?
Exposure at Defaultの略で、デフォルトが発生した時点でリスクにさらされている金額です。
Q.信用リスクとカウンターパーティーリスクの違いは?
カウンターパーティーリスクは信用リスクの一種で、主にデリバティブなどで取引相手が決済前にデフォルトするリスクを指します。取引価値が市場価格によって変動し、双方に損失可能性が生じ得る点が特徴です。
Q.株式にも信用リスクがありますか?
普通株には社債のような元本返済義務がないため、信用リスクという概念は債券ほど直接的ではありません。ただし企業の信用力悪化は資金調達費用、事業継続、配当などを通じて株価へ大きく影響する可能性があります。
Q.信用リスクを完全になくすことはできますか?
通常はできません。格付け、分散、担保、保証、与信限度、モニタリングなどによって信用リスクを抑えたり管理したりすることが基本です。
まとめ|信用リスクは「返せるか」だけでなく「どれだけ損失するか」まで見る
信用リスクとは、借り手や債券発行会社、取引相手などの信用力が悪化し、契約どおりの支払いが行われないことで損失が生じる可能性です。
デフォルトリスクと非常に近い言葉ですが、信用リスクでは実際のデフォルトだけでなく、デフォルト前の信用力悪化や、それに伴う債券価格の下落まで含めて考えることがあります。
信用リスクを評価する代表的な材料が信用格付けです。JCRなどの格付会社ではAAA、AA、A、BBBなどの記号で債務履行の確実性を評価しています。しかし格付けは将来を保証するものではなく、財務状況や市場環境と合わせて判断する必要があります。
また、信用リスクが高い債券ほど高い利回りを要求される傾向がありますが、信用スプレッドには流動性や投資家のリスク回避姿勢なども反映されます。「高利回り=有利」と考えず、その高い利回りが何のリスクへの対価なのかを確認することが重要です。
銀行では信用リスクをPD(デフォルト確率)、LGD(デフォルト時損失率)、EAD(デフォルト時エクスポージャー)などを使って計測します。単純な考え方では、期待損失額を「PD×LGD×EAD」で捉えることができます。
さらに、融資先の分散、与信限度額、担保、保証、内部格付け、継続的なモニタリング、ストレステストなどを組み合わせて信用リスクを管理します。
個人投資家にとっても考え方は同じです。社債や債券型投資信託を見るときには、利回りだけではなく、「誰にお金を貸しているのか」「その相手は返済できるのか」「返済できなくなった場合にいくら回収できるのか」まで確認することで、信用リスクをより正確に理解できます。
※本記事は2026年9月4日時点で確認できる金融庁、日本銀行、日本証券業協会、バーゼル銀行監督委員会、格付機関等の公開情報を基に、信用リスクについて一般的な仕組みを解説したものです。特定の企業、社債、株式、投資信託その他の金融商品の取得・売却を推奨または勧誘するものではありません。格付けや過去のデフォルト率は将来の債務履行を保証するものではなく、金融商品には信用リスクのほか価格変動、金利、為替、流動性等のリスクがあります。実際の投資にあたっては目論見書、契約締結前交付書面、発行会社・金融機関等の最新情報をご確認ください。





