
信用リスクプレミアムとは?リスクが高いほど利回りも高くなりやすい
投資家が信用リスクのある債券を保有する場合、安全性がより高いとみなされる債券と同じ利回りでは、追加のリスクを取るメリットがありません。
そこで市場では、信用リスクなどを負担することへの見返りとして、追加的な利回りが要求されます。これを信用リスクプレミアムと呼ぶことがあります。
債券市場では、基準となる国債利回りなどとの差を信用スプレッド(クレジット・スプレッド)として見る方法が一般的です。
概念的には、次のように考えると理解しやすくなります。
社債利回り - 比較対象となる基準金利 ≒ 信用スプレッド
たとえば同じ残存期間の債券で、一方の利回りが1%、別の社債が3%なら、単純な利回り差は2%ポイントです。
信用リスクが高くなるとどうなる?
一般的には、発行会社の信用力への不安が高まると、投資家はより高い利回りを要求するため、社債価格が下がり信用スプレッドが拡大する方向に働きます。
反対に、信用力への評価が改善すれば、要求される追加利回りが低下してスプレッドが縮小する場合があります。
信用スプレッド=デフォルト確率だけではない
ここは重要です。
社債と国債の利回り差を、そのまま「デフォルト確率」と考えることはできません。
日本銀行やBISの研究では、社債スプレッドには発行体の信用リスクだけでなく、市場流動性、投資家のリスク回避姿勢、年限、金融市場全体の状況など複数の要素が反映されることが示されています。
したがって「利回りが5%だから信用リスクプレミアムも正確に5%」という計算ではありません。
信用リスクが銀行に与える影響
銀行にとって信用リスクは最も重要なリスクの一つです。
銀行は企業や個人へ融資し、元本と利息を受け取ります。しかし融資先の業績が悪化して返済できなくなれば、貸した資金の一部または全部を回収できなくなる可能性があります。
信用リスクが高まると銀行の利益に影響する
貸出先の返済能力が悪化すると、銀行では貸倒引当金などの信用コストが増え、利益を押し下げる場合があります。
さらに実際の貸倒れが増えれば、銀行の自己資本や損失吸収力にも影響を及ぼす可能性があります。
そのため銀行は融資前の審査だけでなく、融資後も借り手の経営状態を継続的に確認します。
銀行には信用リスクに応じた自己資本規制がある
銀行の健全性を守るため、国際的にはバーゼル銀行監督委員会が自己資本比率などの基準を定めています。
日本では金融庁がバーゼル規制に基づく国内規制を整備しています。バーゼルIII最終化後の現行規制では、銀行の資産や取引に信用リスクなどに応じたリスクウェイトを適用し、リスク・アセットを計算します。
単純化すると、信用リスクが大きい資産ほど自己資本との関係で慎重な管理が必要になります。
金融庁によると、従来の旧規制は2025年3月31日より前に適用されていたもので、現在はバーゼルIII最終化後の規制が適用されています。
2026年の日本の銀行信用リスクはどうなっている?
日本銀行が2026年4月21日に公表した「金融システムレポート」では、日本の金融システムは全体として安定性を維持していると評価されています。
同レポートでは、金利上昇が続くなかでも企業の倒産・デフォルト動向や住宅ローンの延滞率に現時点で大きな変化はみられず、金融機関の信用コストも抑制されているとされています。
一方で、不動産関連融資や海外ファンド向け貸出など、固有のリスクを持つ与信が増えていることから、リスク管理の重要性も指摘されています。
これは「今後も信用損失が発生しない」という意味ではなく、2026年4月時点の金融システム全体についての評価です。
信用リスク量とは?損失の可能性を数値化する考え方
信用リスク量とは、貸出や債券などから将来発生する可能性がある信用損失を、一定の方法で数値化したものを指します。
ただし「信用リスク量」という言葉には、すべての金融機関・制度で共通する一つだけの計算式があるわけではありません。
目的によって、次のような数字が利用されます。
- 予想される平均的な損失額(期待損失)
- 通常の予想を超えて生じ得る損失(非期待損失)
- 規制上の信用リスク・アセット
- ストレスシナリオで想定される損失
信用リスクの基本「PD・LGD・EAD」とは?
バーゼル規制の内部格付手法などでは、信用リスクを測る重要な要素としてPD・LGD・EADが使われます。
| 略称 | 意味 | 簡単な説明 |
|---|---|---|
| PD | Probability of Default | デフォルトする確率 |
| LGD | Loss Given Default | デフォルトした場合に失う割合 |
| EAD | Exposure at Default | デフォルト時点でリスクにさらされている金額 |
期待損失の基本的な計算イメージ
バーゼルの内部格付手法では、デフォルトしていない企業・銀行・リテール等のエクスポージャーについて、期待損失率を次のように計算します。
期待損失率(EL)= PD × LGD
期待損失額は、さらにEADを掛けた考え方になります。
期待損失額 = PD × LGD × EAD
たとえば説明用に、貸出額が1,000万円、1年間のデフォルト確率を2%、デフォルトした場合の損失率を40%と仮定するとします。
1,000万円 × 2% × 40% = 8万円
この条件だけを使った単純な期待損失額は8万円です。
ただし、これは仕組みを理解するための単純例です。実際の銀行の信用リスク計測や自己資本計算には、資産区分、担保、保証、満期、相関、規制上の下限値など多数の条件が関係します。
「LGD」はデフォルトしても全額失うとは限らないことを表す
企業がデフォルトしたからといって、貸出金の100%を必ず失うわけではありません。
担保となっている不動産を売却したり、保証を利用したり、企業再生手続きの中で一部を回収できたりする可能性があります。
そのため、信用リスクでは「デフォルトするかどうか」だけでなく「デフォルトしたとき何%失うのか」も重要です。
期待損失と非期待損失の違い
金融機関では、ある程度平均的に発生すると予測される損失を期待損失(Expected Loss:EL)として捉えます。
しかし実際の景気悪化では、想定より多くの企業が同時にデフォルトする可能性があります。
平均的な予想を超える損失部分は、一般に非期待損失(Unexpected Loss:UL)という考え方で捉えます。
バーゼルの内部格付手法における信用リスク・アセットは、こうした予想を超える損失に対する自己資本の確保を念頭に置いた仕組みになっています。
日本銀行も信用リスク量を分析する際、経済環境や企業のデフォルト状況などを考慮し、ストレステストを含む複数の方法を利用しています。
株式投資にも信用リスクは関係する?
株式については少し考え方が異なります。
普通株式には、社債のように「○年後に元本100万円を返済する」という契約上の約束がありません。そのため、信用リスクという言葉は通常、貸出や債券でより直接的に使われます。
しかし、企業の信用力悪化は株価にも大きな影響を与える可能性があります。
信用力が悪化すると株価にも逆風になり得る理由
- 借入金利が上昇する可能性がある
- 新たな社債発行が難しくなる可能性がある
- 資金繰りが悪化する可能性がある
- 設備投資や成長投資を抑える可能性がある
- 配当が減額・停止される可能性がある
- 増資等による資金調達が必要になる可能性がある
- 経営破綻すれば株式価値が大きく失われる可能性がある
日本証券業協会も非上場株式等について、投資先企業が倒産することなどによって投資金額がゼロになる場合があると注意を促しています。
つまり株式投資では「信用リスク」だけを見るわけではありませんが、発行企業の財務健全性は重要な分析項目です。
株式と社債では立場が違う
社債投資家は企業に対する債権者です。一方、普通株主は企業の所有者側に位置します。
そのため、経営破綻時には債権者への支払いが株主より優先されます。普通株式はより大きな値上がり余地を持つ一方、企業が深刻な財務危機に陥った場合には大きな損失を受ける可能性があります。
カウンターパーティーリスクとは?通常の信用リスクとの違い
カウンターパーティーリスク(Counterparty Credit Risk:CCR)は、デリバティブ取引などで重要になる信用リスクです。
バーゼル銀行監督委員会は、取引の最終的な決済が完了する前に取引相手がデフォルトし、損失が発生するリスクと定義しています。
通常の融資との違い
銀行が企業へ1,000万円を貸す通常の融資では、基本的に銀行側が借り手のデフォルトリスクを負います。
一方、金利スワップなどのデリバティブでは、市場価格の変化によって取引価値がプラスにもマイナスにもなります。
そのためどちらの当事者が相手のデフォルトによって損失を受ける立場になるかが時間とともに変化し得る点が特徴です。
| 項目 | 通常の貸出信用リスク | カウンターパーティーリスク |
|---|---|---|
| 代表的な取引 | 融資・債券 | デリバティブ・証券金融取引など |
| リスクの方向 | 基本的に貸し手側 | 取引価値によって双方に生じ得る |
| エクスポージャー | 融資残高などが中心 | 市場価格によって変動する |
では、銀行や投資家は信用リスクを実際にどう減らしているのでしょうか。分散、担保、保証、限度額、ストレステストなど、代表的な管理方法を次ページで整理します。
信用リスクはゼロにはできませんが、「誰に・いくら・どの条件で貸すか」を管理することで損失を抑える仕組みがあります。




